スタジオ標準のクロックジェネレータ―で名を馳せるAntelope Audio。最近は革新的なFPGAの技術を用いたオーディオインターフェイスが欧米を中心に広いシェアを獲得しています。
同社はモデリングマイクロフォンでも定評がありますが、今回はUSB接続専用のコンデンサーマイクロフォン[ Edge Go ]をエンジニアの篠崎恭一氏に試してもらいました。
当日はAntelope Audio Japanの小長谷氏も同席。
偶然にも篠崎氏と小長谷氏は、旧知の仲だったということもあり、今回は放談スタイルでお届けします。
もくじ
サンフォニックスSTAFF M (以下M) :
篠崎さんは以前に[ Edge Duo ]のインプレッションもされた、とのことなんですが、[ Edge Go ]の純粋なマイクとしての印象はいかがでしたか?
篠崎さん(以下S):
マイクの品質としては「凄く高いな」って言う気がしてて、モデリングマイクを使わないで「Edge Go本体の音」っていうのも選べたので使ってみたんですけど、やっぱりそれでも十分クオリティ高いなっていう印象がありました。
レンジも広いしダイナミクスへの反応もいいし、これはこれで凄くいいマイクだなって思いましたね。
M:
私も以前、音響ハウスさんで開催されたイベントで[ Edge Duo ]をとてもいい環境で聞かせていただいたんですが、マイクとしての基本性能がやっぱり凄くいいんだなっていうのはその時良くわかりました。
※注:Edge Go には同社のモデリングコンデンサーマイクEdge Duo のコンポーネンツがそのまま使用されている。
S:
変な癖もありませんしね。
M:
使い始めに戸惑うようなことはありませんでしたか?
S:
そこはもう本当にUSBを挿すだけだったので。
M:
DAWは何をご使用になりましたか?
S:
Pro Tools です。
基本的にはプリアンプなどもマイクチェックの段階では基本のものに絞って、1073(BAE-1073MP)のマイクプリだけで試しました。
リバーブも使わなかったんですが、マイクのモデリングに関しては、それぞれの個性が出てくる感じでしたね。
M:
トラックの構成概念が少しわかりにくいと思ったのですが?。
なぜステレオトラックなの?、なぜインプットが4つあるの?という点ですね。
私もAntelope Audio Japan の動画を拝見して「なるほど」と理解しました。
Antelope 小長谷さん(以下K):
2つのダイヤフラムからの信号を1つのトラックに反映させているので、ステレオトラックを使います。Input 1/2がマイクモデリングやエフェクトの全てを含んだ信号で、Input 3/4がドライの信号です。
なぜデュアルメンブレンなのか?というのは、昔からあるマイクの指向性を正確に再現するとなると2つのダイヤフラムからの信号が必要だったということです。
ですから、特別なことをしているっていう訳ではなくて、昔からのマイクの構造を再現してエミュレーションの精度を高めているんです。
M:
実際のマイクエミュレーションで、気に入った、面白かったとか印象に残った物はありましたか?
S:
一通りチェックをしてみて、実機を聴いたことがあるもの、無いものもあったので、聴いたことが無いものはわからないんですけど、個人的にはやっぱり800G(Tokyo 800T)が好きだな、と。
スッキリ感もいいし、チューブ独特の温かみもあるし、Edge Goのマイク自体としてもいいものなんですけど、それに加えて、その800Gの質感がが加わるっていうのはすごい使いやすいと思いました。
あと414(Vienna 414)のギラギラ感はやっぱり華やかだなっていうのはありましたね。C12(Vienna 12)も良かったです。
M:
実機と聞き比べたりは・・・?
S:
87(Berlin 87)とかは比べました。聞き慣れているので。
全体的に録音環境も違うので、一概には言えないと思いましたが、マイクのチューニング的に「声」に合わせてるのかな?
AD/DAの部分などで変わってくるのかも知れませんけど、実機よりスッキリしてるなって印象がありました。
K:
モデリング元が[ i ]なのか[Ai]なのかがわからないんです。
ただ、87はロットでかなり音が違いますからね。
S:
僕が試したのは無印の頃のものですね。
状態のいいヴィンテージマイクっていうのもなかなか無いので、そういう意味ではこれだけのマイクが選べるというのは凄くいいと思います。
800Gなんて、置いてるスタジオもなかなかないので。
個人で手が出せる価格でもないですからね。
K:
800Gは製造も終わってしまいましたからね。
でも、800Gはそっくりです。音響ハウスさんで聴いたときには僕もビックリしました。
M:
マイクプリやコンプレッサーなどのヴィンテージイクイップメントについては?
S:
基本的にはチェックの段階では一番使い慣れてるっていうのもあって、1073ばっかり使ってたんですけど、質感的にはより似てるなっていう印象がありました。
コンプも76(FET-A76)とかを使ってみましたけど、やっぱり実機らしいニュアンスが出るのは使いやすいなって思いましたね。
76とかだと、いろんなメーカーから出てますけど、これはこれで独特の質感というわけではないですけど、凄い使いやすいものだなっていう印象がありました。
K:
リバーブ(AuraVerb)も使いました?
一応あれは評価が高いんですよ(笑)。簡単にどんな感じでしたか?
S:
使いました。
やっぱりその透明感と言うか、消え際まで濁らない感じがいいなっていう感覚がありました。
使い易いって言うと面白くない感じにもなっちゃうんですけど、あったら便利だなっていう質感ではあって使いやすかったですね。
K:
おそらく普通の人、と言うかスタジオの方って、かなり濁ってるリバーブを聴いているんじゃないのかなって思うんですよね。
スタジオでメインで使ってる例えばLexicon のものは8bitなので、でかなりザラザラしてるんですね。そういうのに比べたらかなり細かいというか、綺麗な音で伸びていきます。
新しく設計してるっていうのもありますけどもね。
S:
消え際が結構みんな個性が出ますよね。
濁らない感は、何にかけても相性が悪いっていうことは無さそうだなっていう感じがしました。
K:
そうですね、消え際ですね。パツって消えるタイプもあれば、汚れちゃうタイプもあったり。
S:
そうそう、デフォルトでゲート(Power Gate)が入ってるじゃないですか。
それがシンプルで使い易かったです。
K:
そうなんですよ!。僕も大好きなんですよ。
S:
アレ、いいですよね!(笑)。
K:
他のゲートで、あれだけシンプルなのは無いじゃないですか?。
ゲート、エキスパンダー系はAntelope 最高にイイです。
S:
なんか細かい設定を追い込まなくても、とりあえずかけときゃ困んない。みたいなところがあって。
狙った通りにかかってくれる感があります。
K:
これはホントに楽というか、わかりやすいっていうか。
パラメーターと自分の感覚が凄くマッチする感じがあります。
マッチしないプラグインはホント多いんで。
モデリング系のEQのプラグインなんかでも「あれっ?僕の知ってる感覚と違う」っていう感じがするのがあって、それでだんだん使わなくなっちゃったりする。
S:
アナログテープのシミュレーター(Reel to Reel)も、なんか独特のサチュレーション感と言うか、アナログ感が一気に変わって凄く良かったです。
いろいろ聴き比べて、やっぱり1073の質感が近くて使いやすいなっていうのがありましたね。
単純にプラグインエフェクトとしても便利だなって思います。
K:
ユーザーインターフェイスはいかがでしたか?。
正直言うと、僕はまだ改善の余地があるかなと・・・。
ソフトを起動したときに直感的に分かるかどうかって言うところなんですが。
S:
指向性を切り替えるところがまったく見えないので、戸惑いました。マイクの絵をクリックするだけなんですけど。
でも、ソフトウェア面だとやっぱり実機の見た目が出てくるのはわかりやすかったです。
コントロールパネルもインプットのレベルから、エフェクトの管理までがひとつでできるので、いちいち画面切り替えたりとかしなくていいのは、今何がどういう系列で並んでるのかっていうのが、パッと見で分かるのはいいなって思いました。
M:
USB のマイクっていうことで、これだけ品質の高いマイクロフォンの音をその他の余計な回路、プリアンプすら通さずにそのまま PC に入れられる。って言うモノは他にないと思うんですよね。
それをそのまま、素の音っていうかとてもピュアな音を耳で直接聞けてるって意味では何か比べるものを他に思い付きません。
最初はヘッドフォンで試されましたか?
S:
そうですね。レコーディングの時は当然ヘッドフォンでやったんですけど、聴く段階ではヘッドフォンアウトからスピーカーに強引につなぎました。
別にスピーカーをつないでも、ぜんぜん違和感は無かったです。
M:
LINE OUTを付けて欲しいなと思ったんですよね。
設計上のスペースファクターも含めて難しかったのかな?っていうのは容易に想像はつくんですけどね。
K:
録りをメインに考えているので、ヘッドフォンアウトは本当に録音時のモニター用なんです。
M:
だけどLINE OUT があれば、DAWで音楽制作する人で、ソフトウェア音源だけで制作する人なら、オーディオインターフェイスが無くてもコイツがあれば完結しちゃいますよね。
M:
今回篠崎さんには、ヘッドホン端子からスピーカーをつないで聴いてみた感想もちょっと伺いたいな、っていうことで、あえてお願いしたんです。
スピーカーは何をご使用になられたのでしょうか?。
S:
YAMAHA MSP7 です。厳密に言うと、[ Edge Go ]のヘッドフォンアウトから卓に入力しました。
全体通して、若干Hi-Fiっていうか、スッキリした印象があって、それは現代的なのかなっていう感じがしましたね。
M:
僕としては、ヘッドフォンアウトをLINE OUTとして使って「オーディオインターフェイスが無くても[ Edge Go ]だけで完結できるよ」って言うところをプッシュしたいんですけど(笑)。
K:
インピーダンス的にも問題ないですから、全然(ヘッドフォンアウトからパワードモニターに)入れてあげて大丈夫ですよ。
アメリカのラップシーンだとトラックメーカーが作ってきた音源をiPhoneで聴きながら、自分でフックを入れるみたいなスタイルもあるので、そういうところのクオリティアップにもいいんじゃないかと。
ブルガリアに[ Skiller (※)]っていうヒューマンビートボクサーがいるんですが、彼は自分の家で[ Edge Go ]でレコーディングしてスタジオに持って行くんだって言ってましたね。
※:2012年、ビートボックスバトルワールドチャンピオン
S:
この安定感のある卓上スタンドはしっかりしてていいですね。あとこのショックマウントの着脱が楽でいいですね。
MacBook Pro なんかでデスクトップ環境で完結できるので便利だと思います。
指向性の切り替えが見えていないところと、マイクによって選択できる指向性が違うんですが、どのマイクでどの指向性が選べるのかが少しわかりにくかったです。あとはちゃんとした日本語マニュアルがあるといいなと思います。
K:
この製品は、篠崎さんならどんな人にオススメできますか?。
S:
動画配信で使うにはちょっともったいないくらいの気がします。
難易度もちょっと高いかも。
これだけのクオリティが出せるので、僕だったら自宅で歌とかナレーションも録ることがあるので、そういう時には重宝しそうです。
K:
僕は作家さんが家で録るには凄くいいと思うんですよ。
DAWの知識はあるけど、レコーディングはわからない人とか、曲は書く、アレンジも出来る、でもDAWは操作できない人とか、プロデューサーさんなんかでもプロレベルのレコーディングまでは自信が無い。
そんな方々に将来ブレイクするはずです。ちょっと先を行き過ぎちゃった製品だと思っています。
実はアメリカではかなりご好評をいただいているんです。
ラップとか所謂フックが多いジャンルで、自宅でパッとフックを録りたいってう層にドンピシャだったんですね。
M:
最後に価格と製品内容のバランスはどのように思われましたか?。
S:
個人的には「安い」と思います。
ただ、この内容の良さは実際試してみないとなかなか伝わらないんじゃないかなとも思います。
この価格で、マイクの選択肢がこれだけ増えるのは凄くいいですね。
単純にプラグインエフェクトとしての価値も高い。
K:
「USB マイク」って言ってしまうと、言葉は悪いですけど「チャチい」感じになってしまうんですが、弊社の社長(イゴール・レヴィン氏)はこれを[ Studio in a Mic ]だってずっと言ってるんです。
マイクの中にマイクの選択肢があって、その後にマイクプリやコンプやEQ、あとリバーブとミキサーがあって、それをDAWで録れる。ドライの音も送れる。
なので、所謂他のUSB マイクとはかなり違う製品です。
M:
そうですね、この記事を見ていただいて、少しでもこの[ Edge Go ]という製品の本当の中身とコストパフォーマンスの高さが伝わればいいなと思っています。
実際に、ン十万円クラスのちゃんとしたコンデンサーマイクの購入を検討している方なんかにも、ぜひ選択肢として加えていただきたいです。そういうクオリティの製品です。
お二人とも、本日は楽しいお話をありがとうございました。
S/K:
ありがとうございました。
●Antelope Audio Edge Goは「サンフォニックスオンラインショップ」で好評発売中!
●Antelope Audio のオーディオI/Fをお持ちの方は Edge Duo モデリングマイクをどうぞ!
■篠崎恭一
ギタリスト松尾洋一氏の紹介でマニピュレーターの道へ。 マニピュレーターとして大串友紀に師事し、数々のアーティストのサポートを担当。 現在はマニピュレーターを中心としつつ、レコーディングエンジニアとしても活動中。 また、MI-JAPAN東京校にて後進の育成にも力を注ぎつつ、雑誌の記事の執筆も行っている。 PAエンジニアとして活動することもあり、自身の作品の制作にも力を入れている。
音に関することは「来るものは拒まず」の精神で精力的に活動中。