宅録ギタリストの必需品、アンプシミュレーター。
とてもリアルなアンプの音を再現してくれる最近のアンプシミュレーターですが、プロも実際の現場で実機のアンプを使わずにシミュレーターで済ませてしまう程のクオリティになっているというのはもはや有名な話。
アマチュアレベルのDTMではもはや十分なクオリティを持っていると言えます。
ただ、マルチエフェクターの中に1機能として盛り込まれている物というのもあり、物によってはオマケ程度の性能ですので音源作成にちゃんと「使える」サウンドを求めるのであれば絶対にアンプシミュレーター単体の専用機がオススメ。
今回試してみましたElevenRackは専用機なので、もちろん音源制作の用途にもオススメできるものです。
もはや発売から数年経過しロングセラーの定番商品ではありますが、「AVID ELEVEN RACKを試してみた」レビューをしてみたいと思います。
もくじ
1、ElevenRackとは?
まず、この機材を方ご存知ない方もいらっしゃると思うので、とりあえず簡単に説明させて頂きます。
ラックタイプのハードのアンプシミュレーターであり、ProToolsの開発元であるAVIDが設計していて「ProToolsとの親和性」が高く、セッティングの保存やコントロール面で便利な機能を搭載していて、世界中のトップクラスのアーティストが導入していることからわかるとおり、そのサウンドはまさに「極上」といえるもの。
一番の特徴はハードウェアとソフトウェアの連携とハードウェア回路の品質でしょう。
ProTools以外のDAW、CubaseやLogic、Sonarなどでも、もちろん使用する事もできます。
オーディオインターフェイスとしても機能するので、ギターの生音を直接録音したり、ElevenRackで音作りした音を録音したり、録音した生音をリアンプ処理する事ができたりとこれ一台で色々な事ができます。
またアンプへ出力するための専用アウトプット端子を装備しているので、プリアンプとして使ったりもできますし、メインアウトからPAに直接送る事も可能など、DTMだけでなくスタジオやライブでのユースもこなしてくれます。
ちょっと嬉しいのがセンド/リターン端子があって、お気に入りのエフェクターを接続して構成に組み込むこともできるという所でしょうか。
2、操作性
さて、とりあえずElevenRackをざっくりと説明させて頂きました。
次に使い勝手について紹介していきたいのですが、アンプシミュレーターには大きく分けて2つの形があり、この2つでは操作性が大きく違います。
2つのタイプ、ハードウェアとソフトウェア
◆ハードウェアタイプ
実機として存在するもの、コンパクトエフェクターのように機械があり、その中の回路や専用のチップで音の処理等を行うもの
◆ソフトウェアタイプ
実体はなく、パソコン上でプログラムとして動作するもの。音はパソコンのCPUで処理されるタイプ。
この二種は実機とプログラムという大きな違いから操作性は大きく異なります。
例えば、ソフトウェアタイプの代表的なアンプシミュレーターAmplitubeの操作画面はこのようになっています。
このようにソフトウェアではグラフィカルに実際の機材を模したイラストが表示され、そのツマミをマウスでコントロールしていく方法。
マウスで操作するといってもすごく操作がしにくいなんてことはなく実機のように簡単で、楽しく音作りにのめりこむことができるでしょう。
マイキングなどもこんな感じで実際の位置決めのように直感的に行う事ができます。
対してハードウェアタイプのものはこのような本物のつまみやスイッチで操作を行います。
ツマミでの操作という部分で実機に通ずるリアルな操作感がありますが、その他の設定、アンプモデルの選択等はスイッチとロータリーエンコーダーで行います。
僕は普段ソフトウェア派なのですが、ソフトウェアでの操作は実物のツマミで設定するよりはは若干やり辛いものの、アンプの絵が表示されているのでパッと見でわかりやすくグラフィカルにコントロールできるという所もあり、ソフトウェアがお気に入りです。
あとは何よりパソコン1台で完結するというセッティングの簡易さですね。
ElevenRackはハードなので通常であれば、実機のアンプやマルチエフェクターのように実際のつまみをいじって操作するタイプになります。
しかしソフトウェア派の方にとってもElevenRackには専用のエディターソフトが提供されていますので、操作の仕方がデメリットとなる事はありません。
このエディターを利用すればソフトウェアタイプのようにグラフィカルなコントロールが可能なのです。
・Eleven Rack エディター
このエディターからElevenRackのほぼすべてのパラメーターを操作できます。
そしてこのエディターは音に関する処理は何もしていません。
あくまでもただのコントローラーなのです。
つまり、このエディターをパソコンで立ち上げたとしても、CPUに音の処理による負荷はかからず、音に関する処理は全てElevenRack本体が行うという事です。
なので、ソフトウェアタイプのようにグラフィカルで直感的な操作は可能になるけれど、音に関する処理は全てElevenRackで行われるのでCPUに大きな負荷をかけることなくアンプシミュレーションが可能という事になるので、ソフトウェアの操作性とハードウェアの軽快な動作の良いとこどりを実現してるといえるでしょう。
CPUはプラグインの処理はもちろん、DAWの動作やOSを動かすための処理も担っています。
なので、このパワーを使いすぎるとパソコンが不安定になってしまったり、ノイズが乗るという原因になるのです。
その点上記のようにElevenRackは内部に搭載したDSPという専用の音声処理チップで音を処理するので、負荷の高いアンプシミュレーションに関してCPUの代わりに行う為、軽快なエフェクト処理が可能となるわけです。
元々、このアプリケーションはProToolsに内蔵の機能でしたが、ProTools11以降からはProToolsから切り離され、単体のアプリケーション(スタンドアロン)として提供されるようになったので、他のDAWでもエディターからのコントロールが可能になっています。
ProToolsのユーザーでなくともElevenRackのいいとこどりな部分を使う事が出来るようになっているという事ですね。
コントロールアプリケーションの画面はこんな感じ。
ここで設定したパラメーターはシームレスにElevenRackのに反映されます。
逆にElevenRack側でいじった設定も、このアプリケーション画面に同じように反映されます。
操作性の良さは瞬間のひらめきやアイディアをすぐさま形にするためにとても重要で、直感的に行えるのがベストです。
設定でDAWとノブを行き来しているとせっかくのアイディアが消えてしまいかねません。
ElevenRackではこのアプリケーションによってかなり「直感的」な操作が可能となり、瞬間のひらめきを邪魔しないで音作りを行う事ができると感じました。
ソフトウェアタイプを既に使っていてる人はハードの細かい設定方法を覚えなくともエディターからソフトと同じよう操作していればすぐになれる事ができると思います。
3、Pro Toolsとの連携
●セッティングの自動保存
連携機能として、リージョンへの設定の埋め込みというものがあります。
これはあらかじめ埋め込み設定をONにしておくことで、ギターを録音したときに自動的にリージョンに対して録音した時点でのセッティングが保存されるというもの。
あの時弾いたこのフレーズの音をもう一回使いたいのにセッティングの保存を忘れてた!なんてときにもリージョンにその情報が埋め込まれて保存されているのでそこから呼び出せばすぐに使う事が出来ます!
セッティング情報が埋め込まれたリージョンにはこのようなマークが表示されます。
一曲を通して録音していくうちにセッティングをちょこちょこ変えていくのはよくある事だと思います。
ですが、何度も保存をしたり曲やフレーズごとのセッティングを作るのはかなり面倒な作業だと思います。
この埋め込み機能であれば意識的にそういった事をせずともProToolsとElevenRackが連携してセッティング情報を保っていてくれるので、演奏者はただ制作を進めていけば良く、サウンドの保存を逐一気にする頻度を減らすことができます。
これはスマートフォンなどの自動バックアップみたいな感じです。
自動で保存してくれて不測の事態に備えてくれているわけです。
※この機能は事前に埋め込みをONにする設定が必要です。
4、ProToolsは勿論、他のDAWでも使えるリアンプ機能
※リアンプとは?
このテクニックでは録音時にギターのドライ音(エフェクトの何もかかっていない素の状態の音)とアンプを通したウェット音(エフェクトがかかった音)を録っておきます。
その後でアンプのセッティングを変更したい、となったらウェット音のみ録音していた場合、変更が効かず、全て取り直しになるという手間が発生してしまいます。
そのため、ドライ音も録っておくことでこの音をアンプにルーティングしてアンプのセッティングを変更して取り直すという手法です。
演奏はバッチリ決まったけれど音がちょっと納得いかないとなってしまうと、サウンドの練り直しをしてからリテイクを重ねるというのが普通の収録だと思います。しかしこれでは修正したくなるたびに多大な労力と時間が浪費されていってしまいます。
そんな問題を解消してくれるとっても便利なやり方なのです。
ElevenRackでもドライ、ウェット音を録っておくという所までは一緒です。
トラックのインプットをGuitar inにすることでドライ音、ElevenRigにすることでウェット音を録る事が出来るます。
つまり両方の音を録る為にトラックを2つ用意する必要があります。
そして録音したあと、音がイメージとちょっと違うんだよな…となったときにドライ音を利用してリアンプを行う事が出来ます。
通常の音の流れはこんな感じで、水色がドライ音、オレンジ色がウェット音です。
ドライ音のトラックのアウトプットをRe-Ampに設定することでドライ音を再びElevenRackに戻すことができます。
この戻された音はElevenRigにルーティングされているので、もう一つリアンプ用のトラックをつくり、インプットをElevenRigにすることでこのトラックに対してウェット音が入ってきます。
この時の音の流れはこんな感じでDAWからElevenRackに音を戻しDSPで処理した音をまたDAWに返します。
あとはリアンプトラックをレコーディング待機状態にしておき、録音を開始するだけ。
リアンプトラックに最初に録ったドライ音を使ってアンプシミュレート処理された音が録音されます。
ここで一つ気を付けなければならないことがあり、ElevenRackでは録音中のセッティングの変更はリアンプトラックに録音される音に影響するということです。
リアンプ録音中に誤ってツマミやスイッチにに触れてしまったりするとその音がそのまま反映されてしまいます。
注意をしなければならないところですが、これを利用して録音中にオートメーションのようにセッティングを変えていくという事も可能です。
ここはちょっとゲインを下げてといったパラメーターの調整からソロでエフェクターON、ここからクリーンのようなスイッチングまでできます。
5、出音について
世界中のトップアーティストが使用していることからもわかるとおり、もちろんサウンドクオリティは高く折り紙つきといえるでしょう。
変なデジタル感のようなものも感じられませんし、音がペタッとしてしまうことなくピッキングニュアンスまでしっかりと拾ってくれて音痩せも少ない印象です。
なぜ良い音だといわれているのか。
シミュレーションのプログラムのクオリティが高いというだけでなく、実はちゃんとハードウェアの技術的な理由があるのです。
これはTrue-Zという回路を搭載しているというのが大きな要因となっています。
◆True-Z
ギターの機材接続においてインピーダンスというものが音に与える影響というのは既にご存知の方も多いでしょう。
ElevenRackに装備されているTrue-Zはセッティングの最初にあるアンプやエフェクトのモデルに応じてインピーダンスを可変させます。
このときインピーダンスはモデリングの元となった実機のインピーダンスにマッチするため、まさに実機に繋いでいるようなサウンドを実現しているのです。
ElevenRack以外のほとんどではこの部分をソフトウェアやシミュレーションなどで補っていたためどうしても完全に再現をするというのは難しい問題でした。それ故に再現性にかける部分があり音がいまいちと言われる原因の一つとなっていました。
ElevenRackではこれをアナログ回路レベルで搭載することにより、可能な限りまで実機と同じインプット状況を作る事で実機に接続したときと同様のレスポンスを実現し、素晴らしい再現性となっているのです。
また、このインピーダンスは通常、自動的に選択されますがあえて自分で任意の数値に変更する事もできます。
ここで発生する影響を音作りに利用する事もできるという事です。
●モデリングのバリエーション
正直、最近のソフトウェアタイプに比べてアンプのモデリングの収録数はちょっと少なめかな、と感じました。
ですが、その分各モデリングのクオリティが高くなっているというような感じなので少数精鋭のようなラインナップとなっています。
収録されているペダルの数も多いとは言えませんが、ElevenRackにはセンドリターンが付いています。
ここにお気に入りのエフェクターをインサートする事もできるので、好きなエフェクターを繋ぐ事もできるでしょう。
僕は普段ソフトウェアのアンプシミュレーターAmplitubeを使ってギターを録音して音楽制作をしています。
最近のソフトウェアプラグインは進化は目覚ましく、ハードウェアと遜色がないレベルの物まで存在します。
丁度僕のお気に入りのモデルSoldanoがElevenRack、Amplitubeの両方に入っていたので同じモデルを使って比べてみたのですが、若干ElevenRackは低音が良く出る感があるかなぁといった所と、Amplitubeではハイを強めにすると結構耳に刺さる感じが顕著だったのですが、ElevenRackではもうちょっとマイルドな感じで不快な刺さる成分が弱めかなと感じました。
双方Soldanoの特徴である歪ませたときのコードの分離感もよく、ハイゲイン設定でのタイトなブリッジミュートも気持ちよく刻むことができて、ハイフレットのフレーズもスムーズに鳴る感じです。
今回、ElevenRackを試してみてソフトウェアの進化はやはり目覚ましく、ElevenRackと比べても多少の違いはあれどしっかりと実用的な音質を出せるのだと改めて認識させられました。
実際、音源の分野では既にハードウェア音源は廃れておりソフトウェア音源が主流になっています。
エフェクトの分野では今のところまだ実機に適わない機種もあるようですが、こちらもその内ソフトウェアに置き換えられていくのでしょうか。
6、まとめ
ソフトウェアタイプのアンプシミュレーターはCPUの負荷がプラグインの中でも高めなものが多い傾向があります。
バンドサウンドの曲でギターを多用するようなものを作っているときなんかですと、クリーンや歪みなどで何も考えていないと数トラックギターがあるなんて事もしばしば・・・。
普通のPCであれば2トラック分くらいなんて事ないですが、それ以上増えてくるとDAWの挙動がおかしくなることもあります。
結果DAWが落ちてしまって今までの編集が・・・!という最悪な事態を避けるためにも重たいシミュレートの処理をハードウェアに任せるという選択肢はかなりアリだと思います。
ElevenRackならクオリティも折り紙つきですし。
そこで減少した負荷を、他の音源やエフェクトにCPUのリソースを割く事ができるようになりますし、CPUの過負荷は書き出し時の音に影響する事もありますので、その部分を見てもElevenRackの利用は音質面で有利だと言えると思います。
また、ソフトウェアと比べた際のメリットとしてアンプへ直接つなげるという事もあります。
ソフトウェアで音作りをしていてこの音でライブをやりたい!となってしまうとライブ用機材を組んでソフトウェアの音に近づけるような感じで音作りをまたするか、PCとオーディオインターフェイスをライブ会場まで持っていく必要があります。
ElevenRackならセッティングを本体に保存しておけばライブ会場ですぐさまアンプへ自宅で作った音を展開する事が出来るのです。
●ProToolsが付属!
発売当初からElevenRackはProToolsとセットパッケージでの販売でした。
現在はProToolsのサブスクリプション版が付属するものとなり、以前よりお求めやすい価格となっております。
サブスクリプション版は一年間ProToolsが使用できるライセンス形態ですが、こちらは単品で購入すると4万円くらい(2016年7月現在)はしてしまいますので、ElevenRackプラスこれが付いてくるのであればかなりお得とも言えるでしょう。
もちろん一般的なのオーディオインターフェイスにありがちな機能制限版ではなく、フルバージョンのProToolsスタンダードがお使い頂けるライセンスです。
※サブスクリプションは1年間有効なライセンス形態です。期限を過ぎると使用できなくなります。ProToolsのライセンス形態について詳しくは弊社特設ページをご確認下さい。
宅録も使って音源制作をこれからバリバリやっていきたいギタリストの方に是非おすすめしたい機材だと思いました。
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